最高裁判所第三小法廷 昭和60年(オ)114号 判決 1985年7月16日
主文
原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
右部分につき本件を福岡高等裁判所宮崎支部に差し戻す。
理由
上告代理人安田雄一の上告理由第一点について
記録によると、(一)(1) 被上告人の主位的請求は、訴外太洋殖産有限会社(以下「訴外太洋殖産」という。)が、第一審判決別紙物件目録(一)ないし(四)の土地(以下「本件(一)ないし(四)の土地」という。同物件目録の他の土地についても同様に表示する。)については所有権を有し、また、本件(五)ないし(七)の土地については訴外田原春松二が訴外東南商事株式会社に対し農地法五条所定の許可を条件として売り渡した売買契約上の買主たる地位(以下「買主たる地位」という。)を同社から譲り受けてこれを有するところ、登記薄上、本件(一)ないし(四)の土地については上告人に所有権移転登記が、本件(五)ないし(七)の土地については上告人に対し条件付所有権移転の仮登記(以下「本件仮登記」という。)がされているので、被上告人は、訴外太洋殖産に対して有する金銭債権を保全するため、上告人に対し、本件(一)ないし(四)の土地については、訴外太洋殖産の所有権に代位して訴外太洋殖産に所有権移転登記手続を求め、本件(五)ないし(七)の土地については、訴外太洋殖産及び訴外東南商事株式会社の各買主たる地位並びに訴外田原春松二の所有権に各代位して本件仮登記の抹消登記手続を求めるというものであり、(2) 右請求に対し、上告人は、訴外太洋殖産に対して有していた金銭債権の弁済に代えて、訴外太洋殖産から本件(一)ないし(四)の土地の所有権及び本件(五)ないし(七)の土地の買主たる地位の譲渡を受けた(以下「本件代物弁済契約」という。)旨の抗弁を主張し、(3) これに対し、被上告人は本件代物弁済契約は通謀虚偽表示であつて無効である旨の再抗弁を主張していたものであること、(二)被上告人の予備的請求は、本件代物弁済契約の成立が認められるとすれば、これは詐害行為を構成する旨主張して、上告人に対し、その取消と本件(一)ないし(四)の土地については訴外太洋殖産に対する所有権移転登記手続を、本件(五)ないし(七)の土地については本件仮登記の抹消登記手続を求めるものであることが、明らかである。
原判決は、本件(一)ないし(三)の土地に係る主位的請求については、上告人の前記抗弁を認め、被上告人の再抗弁を排斥し、したがつて、訴外太洋殖産が本件(一)ないし(三)の土地の所有権を喪失したとの事実を認定しながら、被上告人の請求を認容し、また、本件(四)ないし(七)の土地に係る請求については、上告人の抗弁である本件代物弁済契約の成立を認めることができないとしながら、被上告人の主位的請求を棄却すべきものであるとしたうえ、予備的請求の当否について判断を進め、この判断の過程においては、上告人の右抗弁が認められるとして、結局、本件(四)ないし(七)の土地についての予備的請求を認容している。
しかしながら、右に摘示したところから自ずと明らかであるように、原判決には、本件(一)ないし(三)の土地に係る主位的請求についてはこれを認容するための理由を付していない違法があり、また、本件(四)ないし(七)の土地に係る予備的請求についてはこれを認容するための理由に理由齟齬の違法があるから、右の各違法をいう論旨は、理由がある。したがつて、その余の上告理由についての判断を省略し、原判決中上告人敗訴の部分を破棄することとし、右部分に係る本訴各請求について更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島敦)